みなさんこんにちは!最近寒さが本格化し、コロナが再び猛威を奮ってきました。そこで今回は、非常事態宣言の発生など、再び業績に影響を及ぼす事態となった場合、会計的にどのようなロジックで捉え、どんな論点に派生していくか?というフレームワークを、小売業を前提としてケーススタディしていきたいと思います。
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フレームワークの説明
通常、何か経済事象が発生→会計に影響という流れですが、今回はより詳細に検討するために、消費者行動や会社施策の観点を入れた以下の順番で検討していきたいと思います。

また、コロナや小売業に関わらず、「会計的に考える」コツを一般化するポイントも各STEP①〜③で纏めていきたいと思います。
STEP①事象→消費者行動→指標まで

緊急事態宣言が発令されると、一般消費者は外出を自粛することになり、先行きの不安感から消費マインドも低下するものと考えられます。その結果として、消費者の行動が変化し、来店客数の減少・客単価の減少につながります。
一般化のポイント:ある事象が企業を取り巻く環境にどのような影響を及ぼすかという観点が重要です。環境に生じた変化は、企業が重要と考える指標(KPI)の変化として顕在化します。
STEP②指標→会計施策→会計数値(実績)まで

客数・客単価の減少は、会計的には売上の減少につながります。売上が減少すると、在庫が増加し(売れ残りが生じ)、鮮度が落ちた在庫はますます売れなくなるという悪循環に陥るので、企業は値下げによる需要喚起を行ったり、場合によっては在庫管理コストとの兼ね合いにより過剰在庫の処分という形で対応を図ると考えられます。
在庫の消化にはつながるものの、粗利率の低下につながり、売上の減少と重なることで、営業利益は減少します。営業利益の減少が続く状況だと、企業は事業/店舗の撤退やドメインの変更を視野に入れます。
一般化のポイント:企業が重要と考える指標(KPI)は会計数値からブレイクダウンして設定されることが多いので、当該指標の変化は会計数値に影響を及ぼします。企業は利益の最大化を目指すので、会計数値の変動⇒企業の施策の変化⇒会計数値の変動⇒企業の施策という循環が生じます。
環境変化が著しい今日においては、実績としての会計数値の確定を待たずに、施策の検討を開始することも重要であり、その際には、施策が空振りとならないよう、また他の会計数値に与える影響も理解するためにも、指標・施策・会計数値の結びつきをとらえること(“会計的に”考えること)が重要です。
STEP③会計数値(実績)→会計数値(見積)→派生するアクション

実績として会計数値が悪化した場合、将来の損失発生の可能性も高まっていると考えられるので、見積り科目にも影響を与えます。
・在庫増加により売れ残りor処分の可能性が高くなること(販売可能性の低下)、値下げ販売の実施により粗利率が低下しており将来にかけても赤字販売が増えると想定されること(正味売却価額の低下)により、商品評価損が増加します。⇒結果、粗利率はさらに低下。
・営業利益が減少することで、将来にかけての固定資産投資の回収可能性が低下し、固定資産減損が増加します。⇒結果、税前利益はさらに減少。
・商品評価損・固定資産減損といった将来減算一時差異が増加することで、繰延税金資産の回収可能性判定に用いる会社分類の変更が生じ、繰延税金資産が減少します。⇒結果、税後利益はさらに減少。
このように利益が減少し、赤字が生じるようなケース(純資産が減少するようなケース)においては、継続企業の前提(財務制限条項への抵触有無含む)、親会社が存在する場合は親会社から見た場合ののれん・株式の評価といった新たな検討事項が生じる可能性があるため、将来計画の作成というアクションが必要となります。
一般化のポイント:会計数値(実績)の悪化は、将来の業績見通しにも影響を及ぼすため、会計数値(見積)においても損失が生じることに繋がります。そのため、会計への影響を正しく把握するためには見えている業績悪化だけでなく、見積り項目に与える影響も考える必要があります。また、状況によっては外部とのコミュニケーションの必要性も出てくる点に留意が必要です。
まとめ・サマリ
以上、緊急事態宣言が与える影響をひとつにまとめて流れを示すと、以下のようになります。
売上の減少というところまではすぐに想像ができるかと思います。しかし、会計という面でとらえるだけでも、実際には売上の減少以上に多くの影響があります。
実績として売上が減少する、利益が減少する、というだけでなく、将来の見積りの変化により、資産の評価に反映させる必要も生じます。
また、企業にとっては、利益を確保すること、拡大させることが重要なので、会計に多くの影響を与えるということは企業のとるべきアクションにも影響を与えることになります。
前回の緊急事態宣言発令後は多くの小売業で値下げ・セールといった施策が行われています。
ですので、ある事象を“会計的に”考えることは、早期にとるべきアクションを検討することにもつながりますし、利益の確保・拡大のためにアクションがとられるので、アクションの良否を考えるためにも不可欠な要素です。
以上をまとめると、以下のような流れになります!

キャリアを考える上で大切なこととは?
各フェーズにおいて、対応する職能を当てはめてみました。

特に大規模な企業の中にいると高度に職務分掌がなされているため、業務の守備範囲が明確化されており、目の前の業務に全集中することが求められ、このような一連の流れ・影響が実感しづらいと思います。
一方で、職位が上がるにつれ、この守備範囲は拡大します。一つの事象が企業に与える影響を広く理解して、課題を認識し、自身の行動へと落とし込む必要があります。
とはいえ、職位が上がり、突然そのような視野を求められたとしても対応することは難しいのではないでしょうか。職位が変わらなくとも、日常の業務の中、例えば一つの仕訳起票においても、その前提となる事象・企業活動があるということを理解し、背景を考えてみるということを普段から意識することで、徐々に視野が広がっていきます。会計は企業活動の写実なので、会計を正しく理解すれば、企業活動が見えてきます。また、この経験を積めば、逆に企業活動が会計に与える影響も想像出来るようになるはずです。そのような視点が身に着けば、恐らく自然と上位層としての役割を求められる立場になっていると考えます。
終わりに
今回は緊急事態宣言発令を一つの事例として紹介しましたが、それ以外の事象であっても基本的な考え方は同じです。
ある事象が企業を取り巻く環境にどのような変化を及ぼし、その変化が会計にどのような影響を与えるのか。そのような影響を踏まえて企業はどのようなアクションをとるべきで、そのアクションは会計にどのような影響を与えるか。
“会計的に”考えることは、ある事象が企業活動に与える影響を深く理解することにつながり、また企業がどのようなアクションをとるべきかについての羅針盤にもなります。だからこそ、キャリアアップのためにも必須のスキルと言えるのではないでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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