今回は来年より適用される収益認識基準について解説していきます。
従来の会計処理方法との相違
従来の収益の計上方法は、実現主義という概念のみ定義されていました。
実現主義の場合に収益認識できる要件は以下の2点を満たす場合になります。
- ①役務の提供の完了
- ②対価の確定
しかし、新収益認識基準ではIFRSの考え方に従って、以下の5ステップに従って、会計処理を行う必要があります。5ステップは以下の通りです。
- STEP1 契約の識別
- STEP2 履行義務の識別
- STEP3 取引価格の識別
- STEP4 取引価格の配分
- STEP5 履行義務の充足
この5ステップを満たす場合に収益計上が認められます。一度計上方法を定めてしまえば、あとはそれに従い処理するだけなので、適用時にしっかり整理することが重要になります。以下では、5ステップについて従来の処理との相違点を解説していきます。
STEP1 契約の識別
旧基準 | 新基準 | |
---|---|---|
契約の識別 タイミング | 契約の締結 | 契約締結前であっても、下記の識別要件 を満たす場合には契約を識別する |
契約の 識別要件 | 契約の締結 | 以下の要件を満たす場合には契約を識別する ◆書面、口頭等で約束している ◆各当事者の権利を識別できる ◆支払条件を識別できる ◆契約に経済的実質がある ◆サービスと交換に対価を回収する可能性が高い |
契約の 認識単位 | 契約書ごと | 以下の要件を満たす場合には、一体として認識する ◆複数の契約が同一の商業的目的を有する ◆一つの契約が他の契約の影響を受ける ◆複数の契約が単一の履行義務となる |
従来は「契約の締結」が全てと言っても過言ではありませんでしたが、今後は、契約の締結がない場合でも要件を満たす場合には、収益計上の対象となります。実質的に契約と同義と考えられる場合には収益計上しようという考え方ですね。
STEP2 履行義務の識別
旧基準 | 新基準 | |
---|---|---|
履行義務 の考え方 | 契約を1つの単位として認識 | 契約内で顧客へ約束している内容を細分化し、単独で顧客にとって価値があるかどうかを判定する。 単独で価値がある場合には、それぞれ会計処理を行う。 判断基準は以下の2つがある。 判断基準① →以下のいずれかを満たす場合には、約束を細分化して、それぞれ会計処理を行う。 (a)単独で便益を得らえるか? 又は (b)容易に他の資源と組み合わせ ることでサービスの便益をえられるか? 判断基準② →以下の全てを満たす場合には、約束を細分化して、それぞれ会計処理を行う。 (a)他のサービスと統合してサー ビスを提供していない (b)他のサービスを著しく修正又は顧客仕様としない (c)相互依存性・関連性がない |
ここが新収益基準での一番悩ましい論点になります。従来は契約を一つとして考え、一番主要なサービスに合うように収益を認識していたが、新収益認識基準では、履行義務という概念が生じます。
例えば、飲食店がデリバリーサービスを行なっている場合、従来は当然「飲食物の販売+デリバリー」を一体で収益認識しますが、新基準では、飲食物の販売とデリバリーを別々に単独で価値があるとして認識し、別々に処理を行う可能性があります。
STEP3 取引価格の識別、STEP4 取引価格の配分
旧基準 | 新基準 | |
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取引価格の 識別、配分 | 契約で定められた対価に従って、会計処理を行う | 履行義務が複数ある場合には、契約で定められた金額を履行義務に配分する必要がある。 各履行義務ごとの取引価格の決定方法は以下のアプローチで行い、決定した取引価格の割合で各履行義務に価格を配分する。 (a)調整した市場評価アプローチ (b)予想コストに利益相当額を加算する アプローチ (c)残余アプローチ |
新収益基準では、1つの契約内に複数の履行義務が含まれることがあるため、履行義務ごとに収益認識額を割り当てる必要があるため、このステップが必要になる。
取引価格を算出し、その割合ごとに履行義務ごとの収益額を配分するというだけであり、流れ自体は難しい点はないと言える。
STEP5 履行義務の充足
旧基準 | 新基準 | |
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履行義務の 充足時点 | 役務提供の完了 及び 対価の確定の時点 | 一時点で収益計上するか、一定期間で収益計上するか判断する。 以下のいずれかを満たす場合には、一定期間で収益計上することにある。 ◆義務を履行するにつれ、顧客は便益を享受 ◆義務を履行するにつれ、新たな資産が生じ、 顧客がそれを支配できる ◆義務を履行するにつれ、別に転用できない資 産が生じ、対価を収受する権利を有する |
履行義務の 充足要件 | 同上 | <一時点の場合> 以下の要件を満たした時点で収益計上を行う。 a)対価を収受す る権利を有して いる (b)顧客が資産の 法的所有権を有 している (c)企業が顧客に 物理的占有を移 転している (d)重大なリスク と経済価値を享 受している (e)顧客が資産を 検収している <一定期間の場合> 下記のいずれかの方法により、義務が充足した割合(収益計上できる金額)を見積もる。 ◆アウトプット法:達成成果 ・生産単位数 ・引渡単位数 ◆インプット法:消費資源 ・労働時間 ・コスト |
上記の表では相違が大きく見えるが、実質的には新旧基準で大きな相違はないと考えられます。
どこのタイミングで「顧客に価値が移転したか」が重要な判断要素となります。
まとめ
ここまでで、新旧対比で相違を説明してきたが、会計士の目線でも変更点は大きいと考えています。
従来は2つの要件のみを考えればよかったため、グレーゾーン(見解次第では、いろいろな判断が認められうる余地がありましたが)、新基準では、基準で詳細に要件が定義されているため、基準への当てはめを避けられないので注意が必要です。
これ以外にも細かい論点があるため、判断に迷う場合や、基準を初めて適用する場合には外部の専門家を利用することが、結果的にはコストを一番最小化できるのではないかと思っています。
ご質問等あればコメントいただければと存じます。お読みいただきありがとうござました。
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